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​あきらめ症候群・難民申請の環状島

2023年度授業「地球社会と共生」受講生・古瀬菜々子

 あきらめ症候群(resignation syndrome) 

 『眠りに生きる子供だち』(2019 Netflix) /あらゆるトラウマを経験して、彼らは生きることをあきらめた いま昏睡状態に陥る難民の少年少女が続出している(BuzzFeed News)

 <あきらめ症候群について>

​▷ 2000 年代はじめ頃から 2019 年まで、スウェーデンで、数百人の難⺠の子

どもたちが「あきらめ症候群」と診断される

​▷ 症状:最初は話さなくなり、寝たきりになる。それから食事量が減り、水

分も一切取らなくなり、現実から逃げるように昏睡に近い状態になり、数年目覚めないこともある。昏睡状態の子どもたちは鼻のチューブから液体栄養剤を注入し、栄養を摂取する。

​▷ 原因:なぜスウェーデンで発症数が多いのかは判明していない。症状が出るのはバルカン半島や旧 ソ連南部、またはどこかの少数⺠族の子ども。発症する子どもとその家族は必ず精神的/肉体的に傷を負い、本国送還に怯えている。(スウェーデン以外では、ナウルのオフショア難⺠拘留施設で流行)

​▷ 両親の精神が安定した後に子どもが回復することが多い。

​▷ スウェーデンでは難⺠許可の制限が厳しくなり、あきらめ症候群の子どもが増加している

 <ダリアの場合>

​▷ 家族とスウェーデンへ逃亡し、難⺠申請。1 年以上あきらめ症候群にかかっていた。

​▷ 背景:父親がプロバイダ事業をやっていたが、政府の担当者にサービス停止を求められる(地域の人

にネットを使えなくして首都の情勢を隠すため)。指示に従わなかった父親は半年ほど脅迫を受け続 け、その後拷問される。母親は賄賂で夫を脱出させ、夫だけスウェーデンへ逃亡。しかし母親は何者 かに尾行され続け、ある日捕らえられ強姦され、夫が 20 日以内にスウェーデンへ帰国しなければ一 家皆殺しだと脅される。母親と子どもを連れて夫のいるスウェーデンへ逃亡。

​▷ スウェーデンで難⺠申請。1 年半後、難⺠申請は却下された。

​▷ 両親は子どもたちを不安がらせたくなかったため、すべての経緯を隠していたが、難⺠申請の却下

の決定の際に、逃げて来た経緯を含めて子どもたちも一緒に決定を聞くこととなる。通訳が必要な 両親と違い、子どもはスウェーデン語を理解するため却下の決定を聞いて泣き出す。その後からダ リアの様子がおかしくなる。

​▷ ダリアは学校で「国に帰らされ殺される」と泣き出す。そのうち食事をしなくなり、反応しなくなる。

​▷ 両親は決定に対して不服申し立てをし、約 1 年後に許可が出る。

​▷ ダリアはその 6 ヶ月後、回復し、学校にも通っている。病気の時の記憶はない。 →子どもの回復には、生命維持のための医療的介入だけでなく、家族を支えることや「希望」が必要。ス ウェーデンでは永住ビザや在留許可が与えられると希望と安定を感じ取り、回復することが多い。永住 権が取れると家庭の雰囲気が変わる。子どもに接する両親の声のトーン、触り方も変化する。そのような 変化を子どもは感じとり、回復へ向かうことができる。

​スウェーデンで難民申請の結果を待っているとき
  • 波打ち際:難民の親→かろうじて内海から脱出するプロセスにいる

  • 内海の水面:子ども→命がけで浮き輪を使い(外からは「水遊び」と見えることもある)、親にロープで引っ張られている(意思と関係なく土地を離れることになる場合がある)

  • 内海の底:出身地の人々、なくなった人(庇護を求めて移動できない人々)

  • 重力:トラウマの持続的な影響力

  • 風:被害者間(難民間の重さ比べ)、被害者と支援者間(不信感、継続的な支援の難しさ)

  • 外海:無関心、排除の声

  • ​加害者:圧倒的な存在感

難民申請却下、不服申し立ての結果がでるまで
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  • 切れるロープ:親とは違うトラウマの経験(言語、学校、移住先での経験)

  • 空気が抜けていく浮き輪:子どもが徐々に内海に沈んでいく(徐々に進行するあきらめ症候群の症状)

  • 外海に沈みそうな支援者:継続的な支援の難しさ

  • 存在感を増す加害者:常につきまとう送還の可能性、「殺されるかもしれない」という恐怖

  • 外海:あきらめ症候群を『こどもが仮病を使っているだけ』『親が毒をもった』などと主張する人々

難民認定後
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  • ヘリコプター:行政、国家→ヘリコプターがいつ、どのくらいの頻度で島の上空を飛ぶかは環状島の中からはわからない(難民認定の恣意性、行政側の手続きの時間に翻弄される)

  • ヘリコプターから支給される救命道具:在留資格、永住許可など。またそれによってもたらされる安心

  • 小さくなる加害者の存在

  • ​水位の上がる外海:国境管理の厳罰化

参考文献

ジョン・ハプタス監督 and クリスティン・サミュエルソン監督, 眠りに生きる子供たち(Life Overtakes Me), 2019, Netflix(URL:https://www.netflix.com/jp/title/81034980).

Lane Sainty and Emily Verdouw, 「あらゆるトラウマを経験して、彼らは生きることをあきらめた いま昏睡状態に陥る難民の少年少女が続出している」, 2018, BuzzFeedNews,(https://www.buzzfeed.com/jp/lanesainty/refugee-children-resignation-syndrome-sweden-australia-1

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